手話通訳者の理念と仕事Ⅱ

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手話通訳者の理念と仕事Ⅱ

1. 手話通訳領域について

(1) 医療領域での手話通訳は、聴覚障害者が病状や治療について理解できているかどうかに最大の注意を払う必要がある。

(2) 文化教養領域では、聴覚障害者の参加の有無にかかわらず、手話通訳者を配置することはコミュニケーションバリアフリーという面で評価できる。

(3) 高等教育領域での手話通訳は、専門的な講義や多様な授業内容に対応できる知識や技術などが必要になる。

2. 手話通訳過程について

・手話通訳過程には準備過程、実施過程、評価過程の一連の流れがある。

3. 医療場面を担当する手話通訳者の心構えについて

(1) 医師と聴覚障害者が対面して、話ができるように医師の隣に立つ等、工夫をする。
(2) 受診前の待ち時間を利用し、これまでの経過や主訴などについて、聴覚障害者へ事前の確認をする。
(3) 専門用語や理解しにくい内容については模型や写真、図での説明を医師に依頼する。

4. 手話通訳士倫理綱領

手話通訳士倫理綱領
日本手話通訳士協会

私たち手話通訳士は、聴覚障害者の社会参加を拒む障壁が解消され、聴覚障害者の社会への完全参加と平等が実現されることを願っている。このことは私たちを含めたすべての人々の自己実現につながるものである。

私たち手話通訳士は、以上の認識にたって、社会的に正当に評価されるべき専門職として、互いに共同し、広く社会の人々と協同する立場から、ここに倫理綱領を定める。

1.手話通訳士は、すべての人々の基本的人権を尊重し、これを擁護する。
2.手話通訳士は、専門的な技術と知識を駆使して、聴覚障害者が社会のあらゆる場面で主体的に参加できるように努める。
3.手話通訳士は、良好な状態で業務が行えることを求め、所属する機関や団体の責任者に本綱領の遵守と理解を促し、業務の改善・向上に努める。
4.手話通訳士は、業務上知りえた聴覚障害者及び関係者についての情報を、その意に反して第三者に提供しない。
5.手話通訳士は、その技術と知識の向上に努める。
6.手話通訳士は、自らの技術や知識が人権の侵害や反社会的な目的に利用される結果とならないよう、常に検証する。
7.手話通訳士は、手話通訳制度の充実・発展及び手話通訳士養成について、その研究・実践に積極的に参加する。
1997年5月4日
日本手話通訳士協会第8回定期総会採択

5. 司法領域における手話通訳について

(1)2000(平成12)年の民法969条の改正により、「公正証書遺言」作成に手話通訳もつけられることになった。

(2)刑事事件では、警察、検察、裁判とそれぞれ別の通訳者を配置する。これは予断を避けるためである。

(4) 通訳の過程で通じにくい部分や通じないと判断した時は、その旨を法曹関係者にきちんと伝えなければならない。

6. 手話通訳とは、手話通訳者が手話通訳対象者との間を、手話通訳環境等も考慮しながら、三者の良好な人間関係を構築しつつ、手話及び音声言語の翻訳を行う作業をいう。
手話通訳を行う場合、自らも含めたこの三者の状態を事前にできるだけ把握することが求められる。
聴覚障害者の言語理解力や生活上の諸情報や社会資源の活用能力はどうなのか、関わる健聴者については、聴覚障害者や手話についての知識、言語能力、コミュニケーション能力はどうなのか、そして自らについては、担当する手話通訳の内容についての知識はどうか、健康状態はどうか、などなどである。

7. 講演会などで手話通訳を行う場合について

(1) 事前に講師の著書に目を通しておくとか、講演のレジュメを入手し、内容を把握しておく。

(2) 通訳者同士で「手話合わせ」などをしておく。

(3) できるだけ講師と事前に打ち合わせができるように主催者に申し入れる。

8. 手話通訳制度の歴史と課題

(1) 国は手話のできる健聴者を養成するため、「手話奉仕員養成事業」を1970(昭和45)年に開始した。

(2)1998(平成10)年に国は、手話通訳者養成事業のカリキュラムを作成し、各都道府県に通知した。

9. 文化教養場面を担当する手話通訳者の心構えとして

(1) 講演内容を把握するため、事前に講師の著書や、レジュメに目を通しておく。
(2) 複数の通訳者が担当する場合、通訳者同士で打ち合わせをしておく。
(3) 通訳者の立ち位置の確認、照明や音響の状態の確認など通訳環境を整える。

10. 医療場面において手話通訳者が留意すべき事項について

(1) 聴覚障害者が理解できているかどうかに最大の注意を払わねばならない。
(2) 聴覚障害者が医師の説明が理解できない時は、通訳者自身の知識や経験で判断するのではなく、医療関係者にその旨伝え、対応してもらうようにすべきである。
(3) 医療関係者に対して、聴覚障害についての理解を求めるための情報を提供することも通訳者の役割である。

11. 手話通訳者が通訳場面において留意すべきすべき事項として

(1) 労働場面において、聴覚障害者を取り巻く職場の人間関係に配慮する。
(2) 医療場面において、聴覚障害者が理解できているかどうかに最大の注意を払う。
(3) 文化講演会の場面において、事前に講師の著書や講演レジュメに目を通し内容把握に努める。

12. 文化教養場面を担当する手話通訳者の心構え

(1) 通訳者の立ち位置の確認、照明や音響の状態の確認など通訳環境を整える。
(2) 複数の通訳者が担当する場合、通訳者同士で打ち合わせをしておく。
(3) できるだけ講師と事前打ち合わせができるよう主催者に申し入れる。

13. 司法場面における手話通訳は、基本的人権及び様々な権利に直接変わることになるため、特に留意すべき対応が必要となります。

(1) 刑事事件では、予断を避けるため警察、検察、裁判(場合によっては弁護士)の段階で、それぞれ通訳者を別に配置する。
(2) 通訳に過程で通じにくい部分や通じないと判断したときは、その旨を法曹関係者に伝える。
(3) 通訳者が、通じにくいのは恥であると一人で抱え込んで、通じにくい部分を通じさせようとすることは誤りである。

14. 病院・医院・保健所等の医療場面への通訳同行は、聴覚障害者の健康と生命に直接関わるもので、手話通訳要求の根幹を成すものであるため、特に留意すべき対応が必要となります。

(1) 聴覚障害者が理解できているかどうかに最大の注意を払わなければならない。
(2) 医療関係者に対して、聴覚障害についての理解を求めるための情報を提供することも通訳者の役割である。
(3) 通訳者自身が持っている知識や常識だけで判断するのではなく、医療に関する医療関係者に託することが重要だ。

15. 手話通訳場面では、それぞれに注意する観点があります。医療場面では、聴覚障害者が理解できているかどうかに最大の注意が必要です。司法場面では、通訳者が通じにくい部分も通じないのは恥ずかしいと通じさせようと努力する事は誤りと指摘されています。労働場面では、通訳者は聴覚障害者を取り巻く職場の人間関係にも配慮が必要になります。

16. 司法場面における手話通訳では、基本的な人権及び様々な権利に直接的に関わることになります。通訳の過程で通じにくい部分や通じないと判断した時は、その旨を法曹関係者にきちんと伝えなければなりません。通訳者がひとり抱え込んで、通じさせようと努力することは誤りです。
   ところで、刑事事件においては、警察、検察、裁判(場合によっては弁護士)の段階で原則的に手話通訳者をそれぞれ別に配置します。これは予断や先入観をさけるためです。

17. ある職場における通訳場面で、聴覚障害者の上司が「これから話すことは通訳しないでください」と通訳者に言って一方的に話し始めました。このとき、通訳者がとるべき態度としては

・上司に、その場で話されていることのすべてを通訳することが通訳者の責任であることを伝え、通訳を行う、こととなります。

18. 病気の内容、その治療法、治癒への確立、治療上の問題点やリスクなどを患者が理解できる言葉で知らせ、患者自身が決定する「インフォームドコンセント」は説明と同意と訳されることが多く、聴覚障害の患者が分かる言葉で説明を受け、自己決定するための条件の整備が必要です。

19. 聴覚障害者が憲法の人権保障規定による裁判権の行使に当たっては、手話通訳が必要であり、不十分ではあっても法的にも認知されてきました。
   しかし、「被告人には自分が受けている裁判の内容を知る権利がある」と聴覚障害者の権利の主張とその運動に結びついて、本格的に提起されたのは、1965(昭和40)年に起きた蛇の目寿司事件の裁判でした。

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