アメリカで始まった障害者の自立生活運動(IL運動)について
1968(昭和43)年に鉄の肺を使用していた重度身体障害を持つエド・ロバーツ氏がカリフォルニア大学バークレー校に入学するにあたり、学生寮にバリアがあって入居できなかったために、大学の保険センターを寮として使用した。大学キャンパス内のバリアフリー化や障害学生への支援プログラムの開発などが進められた。同氏が大学を卒業する時に、市内に生活しやすい場所がなかったことに伴い、1970年代はじめに、アメリカカリフォルニア州の重度の障害がある学生たちが中心になって、自立生活(Independent Living:IL)運動を活発に展開したと言われている。
彼らの主張は、「重度の障害があるといえども、自分の人生を自立して生きる」ことであった。介護の便宜のために施設に収容されて、あてがいぶちでの毎日の生活を拒否することであった。彼らが提唱した自立生活支援サービスのプログラムの3原則は次の通りであった。
① 障害者のニーズがどのようなものか、また、そのニーズにどう応えるのかを最も知っているのは障害者自身である。
② 障害者のニーズは、さまざまなサービスを用意して、総合的なプログラムによって最も効果的に満たすことができる。
③ 障害者は、住んでいるコミュニティーの中にできるだけ統合されるべきである。
この運動は瞬く間に全米に広がり、1972(昭和47)年には、障害者自身が運営する「自立生活センター(Center of Independent Living:CIL)」が発足した。この運動が契機となって、1978(昭和53)年には、リハビリテーション法が改正され、「第7章 自立生活のための総合的サービス」が追加され、第7章Bには、「自立生活センター」が規定されるとともに、州政府より初めて補助金が交付されるようになった。
CILは、主として次のサービスを提供している。
① 自立生活のためのピアカウンセリング
② 自立生活訓練と指導
③ 介助者の募集、訓練、あっせん
④ 法的権利擁護(リーガル・アドボカシー)
⑤ 住宅サービス
⑥ 移動サービス
⑦ 健康管理
⑧ レクリエーションや文化活動
⑨ 就労サービス
⑩ 車いすや機器の修理サービス
全米におけるIL運動は、それまでのリハビリテーションのあり方を一変させた。医学モデルで行われていたリハビリテーションは、IL運動によって厳しい批判をあび、全米の重度障害者たちは、専門家に主導されるリハビリテーションを拒否したのである。
また、自立生活運動では、「障害予防」は、障害者の存在を否定することに通じるとの理由により、反対の意見を表明してきた。
その後、1980年代から1990年代にかけて、この自立生活運動はアメリカのみならず、日本やヨーロッパにも大きな影響を与えることになった。
ただし、アメリカの自立生活運動が広がる前に、日本でもすでに、1960年代から脳性まひの障害者当事者の「青い芝の会」が、障害児を殺害した親に対する減刑運動への抗議、車椅子乗車拒否のバス会社への抗議活動等に取り組み、社会に対して障害者自身の主張を訴えた。
こうした障害者自身による障害者のための自立生活運動は、障害者福祉の考えを大きく転換させる必要を示すことになった。つまり、専門家が障害の「治療」をめざすという「医療モデル」に異を唱え、障害者自身が自立した社会生活をするために、地域社会のバリアフリーを進め、介助に必要なサービスを利用し、自己決定をしていく「(自立)生活モデル」(または「社会モデル」とも言う)に変えていくべきであると考えられるようになってきたのである。
この自立生活運動の中で、それまでは福祉や介護のサービスを利用しないことつまり就労自立や身辺自立が「自立」だと言われてきたが、運動の中で、福祉や介護のサービスを利用して、自己決定によって自らの意思をもって判断・行動し、主体的に生活をしていくこと、つまり自己決定権を行使していくことが「自立」であると、新しい自立観が生まれた。
その理由は、第一に、障害者のニーズを最もよく知っているのは、専門家ではなく、障害者自身であること。第二に、危険だから外出させない等、専門家は障害者を守るために障害者の行動を制限しがちであるが、それに対して障害者はリスクをおかす権利を主張し、専門家の保護管理の枠を超えて、障害者自身が主体的に自己決定権を行使できるように訴えたことにある。
なお、日本での自立生活運動の拠点的機能を持つ施設は、アメリカと同様に「自立生活センター」であり、障害者自身が運営を担い、その地域の障害者運動の拠点となると同時に、障害者の自立生活のための様々なサービスを提供している。全国自立生活センター協議会があり、そこに加盟している自立生活センターは全国で120箇所ある(2010年11月現在)。
なお、地域活動支援センターは、障害者自立支援法に位置付けられているセンターであり「障害者等を通わせ、地域の実情に応じ、創作的活動または生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を供与する」ものである。