第15回手話通訳技能認定試験(実技)2003年(平成15年)
聞き取り通訳試験(問題)
第1問 テーマ「声を掛け合う」
先日、仕事である地方都市に出かけた。
夜も8時をまわっていたと思う。予約した今夜の宿を探し、すっかり暗くなった住宅街を迷いながら歩いていたら、自転車に乗った小学校3年生位の女の子が向こうからやってきた。自宅に急いでいるのだろうか、道は暗いし、危ないなあと思っていたら、すれ違いざまに「こんばんは」と女の子が私に声を掛けて、走り抜けていった。慌てて、振り返りながら私は「こんばんはー。気を付けてね。」と、言葉を返した。「ありがとうございます」という声を残して、小さな影は、路地に消えた。
大きな重いかばんを、それも両肩に背負い、きょろきょろしながら歩いていた私は、不審者にみられたりはしなかっただろうかと思いながら、初めて訪れたこの町の教育の良さを感じていた。
「見知らぬ人には近づかないように」「見知らぬ人に声を掛けられても知らぬ顔をしていなさい」と、世の大人たちは子どもに言って聞かせる。しかし、この町の人たちは、「だれにでも声をかけるように」と教えているようなのだ。
そういえば、先ほど、駅から乗った乗り合いバスでも、乗客の皆が、バスを降りる時に、子どもが運転手に「ありがとう」、大人も「ありがとうございました」と声を掛けて、降車したいたことを思い出した。見ていて、とてもすがすがしく感じた私は、バスを降りる時に、慣れない口調で運転手に例を述べてみた。生まれて初めての経験。運転手の笑顔が目に残っている。見上げれば、夜空に、満天の星。南の空には、ひときわ明るく、この夏6万年振りに地球に大接近したという火星が輝いていた。
第2問 テーマ「幾つになっても人間は向上する」
私たちの記憶力は25歳あたりをピークとし、その後何も訓練しないと低下していき、80歳位にはゼロに近くなるとされています。
ところが、かのハーバード大学医学部で信じられないような研究結果が発表されました。
「40歳から60歳の間にあらためて勉強し、それを続けていると、いったん下がりかけた曲線がもう一度上昇し、81歳の時には25歳の時よりもさらに上に位置するようになる」というグラフが示されたのです。
91歳の女性がハーバード大学工学部建築学科に入学。40代半ばから勉強をやり直して、なんと45年間かかって最難関を突破。
日本では72歳でご主人を亡くされた吉田そのえさん。その時できれば一度はやりたかったという英語のABCを習い始めて、81歳で吉田英語塾を開設。95歳にして自ら高校生までを教えたという。
60歳ではり・きゅうの学校を卒業された柴崎保三(しばざぎやすぞう)さん。その時に2千年以上も前の中国の鍼灸の医学書が、そのあまりの難しさに日本でだれも翻訳していないことを知り、中国語の初歩から勉強し、25年かけた翻訳したという。
新聞やテレビなどでこんなニュースを目の当たりにすると何やら勇気づけられてくる。
「もう年です」の口癖をやめて「まだ幾つです」の思いで自分の潜在能力に挑戦していきたいものです。